STORY 02

国道1号浜名大橋橋梁補修工事

海上30mの現場で引き継がれる
中村組のチャレンジングスピリット
浜名湖の河口を大きくまたぐ「浜名大橋」。北に浜名湖、南に太平洋を望み、絶景ポイントとしても名高い国内有数のコンクリート橋だ。その浜名大橋を通行する車窓からは絶対に見えない場所で、誰も経験したことのない難工事に立ち向かった男たちがいた。
  • 工事名

    国道1号浜名大橋橋梁補修工事

  • 工期

    2016年9月30日~2018年1月31日

  • 構造

    橋梁保全工事

  • 面積

    ひび割れ補修工、断面修復工、表面被覆工、排水管補修工、支承補修工、上部工補修工、下部工補修工、足場工他

プロジェクトメンバー
統括安全衛生責任者・監理技術者

丸山 智紀

統括安全衛生責任者・監理技術者

2007年、中村組に入社。安全も技術も積み重ねていくものという強い信念を持っている。本プロジェクトのリーダー。
現場代理人

福與 弘樹

現場代理人

2010年の入社以来、常に異なるジャンルの現場を歴任してきたゼネラリスト。サブリーダーとして主に現場を担当。

社内経験者ゼロ。国内最大級のコンクリート橋に挑め

「高いな」「高いですね」
2016年、9月。晴天に白く輝く浜名大橋のたもとに立った丸山と福與は、どちらからともなくつぶやいた。「浜名大橋橋梁補修工事」プロジェクトの作業所長と、その右腕である現場代理人を務めるふたりである。その額には玉のような汗が浮かんでいたが、それは残暑のためだけではなかった。

今、日本の各地で社会資本の維持・管理が課題となっている。2020年の第2回東京オリンピックに向けて建設業界は活況を迎えているが、その一方で第1回東京オリンピックの前後に作られた施設が一斉に老朽化し、早急な点検・補修の必要が生じているからだ。竣工から約40年を経た浜名大橋も、事前調査で「緊急性はないが、20年、30年以上先を見据えると補修工事が望ましい」という報告がなされており、長期的な観点から補修工事が行われることになったのである。
丸山:「橋梁の補修工事自体は、それほど難しい工事ではありません」

そう語る丸山は、ちょうど別の現場で5つの橋を同時並行で補修するという工事を終わらせたばかりだった。

丸山:「コンクリートの表面にできたクラックやはがれを補修材で埋めたり、傷んだ排水管を補修していくというもので、技術的なハードルはむしろ低いといっていいでしょう」

ただし、浜名大橋は全長630mを超えるコンクリート橋だ。最高地点は海面から35mと、10階建ての高層マンションに匹敵する。しかも中間地点は海上を跨いでおり、地上からはアクセスできない。中村組全体を見渡しても、これほど特殊な現場で工事を行った経験を持つ者はいなかった。
丸山:「その直前の現場で、いかに安全で作業効率の優れた仮設足場をつくるかが、橋梁工事の成否を決める最大のポイントであることはわかっていました。しかし、この巨大な橋にどうやって足場を組んでいこうか、現地に立っても具体的なイメージがわかない。これまでの経験では通用しない現場だということを直感しましたね」

その隣では、福與も同じ思いで橋を見つめていた。

福與:「武者震いといえば聞こえはいいですが、初めて現場を視察した時はこれまでにない緊張の高まりを感じました。橋としては未経験の高所作業になる上、冬になったらいわゆるからっ風の直撃を受けることが想像できます。これは一筋縄ではいかないな、と思いましたね」

4カ月を費やした、徹底的な事前準備

「浜名大橋補修工事」は公共事業である。そのため、入札時には大まかな施工計画が立案されていた。その計画では、浜名大橋を東西それぞれの陸上区間と、中央の海上区間の3区間に分割し、陸上区間は高所作業車で、海上区間はモノレールに似た移動式足場で作業環境を確保することになっていた。ただし、その計画は綿密な現場調査に基づいたものではないため、さらに精度を高める必要がある。そこでふたりはまず現地の現場条件を把握し、当初の計画と照らし合わせるために綿密な調査を開始した。

丸山:「その調査でわかったのは、まず、補修が必要な箇所が当初の見立てよりかなり多いということ。これだけ数があると、自由に動かせない高所作業車では非効率です」

また、福與が心配していた風の問題に加え、河原という地盤も高所作業車には不向きだった。もし高所作業車を使うなら、国内でも数台しかない40m級の大型車を使う必要がある。
「基本的には、自分で確かめたものでないと信用できない」と語る丸山は一旦作業計画を白紙に戻し、あらゆる仮設足場の情報を集め始めた。間近でその姿を見ていた福與は、丸山の調査の綿密さに舌を巻いたという。

福與:「メーカーが『これはこういう仕組みだから安全』といっても、目で見て触れてみるまでは納得しないんです。中央区間で使う移動式足場も大変珍しく、社内で使用した経験がなかったため、愛媛県にあるメーカーまで視察に行きました」

メーカーには小規模ながらデモンストレーション用の設備があり、実際に足場に乗りこんで動かすこともできた。しかし、それでも丸山は腑に落ちなかったという。海風にさらされる高さ30mの現場ではなかったからだ。

丸山:「本音を言えば、初めての現場で初めての工法は採用したくない。しかし、考えられる限りの方法を模索した結果、それが現状でベストな方法であるという確信は持てたので良かったかなと」
ただ、それで良しとしないのが丸山流だ。未知の工法がベストであるなら、作業手順を徹底的に検討し、見直すべきは見直し、予想されるトラブル全ての対策を立てることで、未知のエリアを極力減らす。特に安全に関わる部分は一切の妥協を許さず、足場の強度検討や風速計の設置といった環境面の整備から、人員や資材の落下を未然に防ぐルールの整備まで、福與とともに徹底的な洗い出しを行っていった。

こうして、陸上区間は高所作業車ではなくクイックデッキという吊り足場を、海上区間は当初の予定通り移動式足場を使う計画が固まった。作業計画の検討に費やした期間は、実に4カ月。当然、工期や予算にも変更は生じたが、丸山の緻密な検討プロセスがそのまま強力な説得材料となって発注者の理解を得ることができ、ブロジェクトはついに着工の日を迎えたのである。

想定内も想定外も、全ては安全のために

こうして丸山と福與が「考えに考え抜いた」工事が始まった。
実際に足場を組み立てる作業員たちにとっても、今回の吊り足場は初めての経験だ。現場代理人の福與は自らも手探りの中、いつもに増して綿密な打合せと工程管理の下で、慎重に作業を進めていった。

福與:「幸いだったのは、この工事が難しそうだということで、協力会社さんからベテランの作業員が集まってくれたことです」

どれだけ事前に予測を立てても、現場では必ず想定外のことが起こる。特に今回は、誰も経験したことのない工事。豊富な経験に裏打ちされた作業員の声には、気付かされることが多かったという。

福與:「そこで日々メンバーが自由に意見を交換できる場を設け、試行錯誤を恐れず改善を重ねていったんです」
事前検討に基づく作業計画を着実に実行しつつも、それに縛られることなく時には柔軟に対応する。硬軟を織り交ぜた現場管理は、福與ならではの采配が光った。そんな福與の働きを、丸山はこう評価する。

丸山:「誰も経験のない工事でありながら、事前に予測できなかった部分をカバーしてスムーズに工事を進めることができたのは、現場をまとめた福與の働きが大きいですね。正解のない現場に当初は不安もあったようですが、現場の知恵を結集して自分たちの正解を導き出してくれました」

福與にとって思い出深いのは、ある冷え込んだ冬の日に、移動式足場の動力源であるエンジン発電機が故障してしまった時のことだ。
福與:「それまで、移動用のモーターを予備に交換するといったことはありましたが、さすがに使い慣れた発電機の故障はないだろうと思っていました。ただ、丸山さんの方針もあって、予備の発電機は用意してあったんです」

加えて、丸山たちは重量約70kgの発電機を、どうやって高さ30mの現場で安全に交換するか、その手順も想定していた。メーカー修理なら数日はかかったであろう復帰作業は数時間で終わり、スケジュールへの影響は最小限に留まった。

ただし、この件に関しては少し補足しなければならない。丸山と福與がそこまでして移動式足場のトラブルに備えていた最大の理由は、別にあったからだ。
福與:「通常の現場であれば、さすがに予備の発電機までは用意しなかったろうと思います。ただし、ここは眼下を船舶が通る高さ30mの現場。故障中だとしても、足場をその場に残すことは許されません」

丸山が続ける。
「所長として、計画通り円滑に工事を進めることが重要な使命であることは間違いないのですが、その前提として無事故無災害がある。だから私の中では、全てにおいて安全を優先することが唯一の信念であって、それが結果として、工事を完遂する一番の早道になっているんです」

それ以外にもいくつか小さなトラブルはあったが、約1年4カ月にわたった「国道1号浜名大橋橋梁補修工事」は、1件の事故も災害も出すことなく終了した。それは、安全第一の信念を貫いた丸山と、その信念を現場に浸透させた福與が、ふたりで掴んだ勲章だった。

誰にとっても初めての経験だった、移動式足場による橋梁補修。中村組の全現場を見渡しても、これほどの規模の工事に未知の工法で挑むという状況は、そうそうあることではない。しかし、このプロジェクトで培われた「未知へのチャレンジシップ」は、いつかまた新しいストーリーを描いていくだろう。